リアル競馬ネタ

イギリス競馬での降着基準を巡る戦い

 ←回避王グレンイーグルス、華麗に4連続回避を決める →セントレジャーSの歴史的降着、抗議で判定がくつがえる

競馬とは強い馬が勝つスポーツだ。
例えレース中に少々のトラブルが発生したとしても、強い馬なら問題なく勝ちきれる。

他馬によって最内から大外まで押し込まれていようが、
斜行して進路がふさがれてしまおうが関係ない。
全ては被害馬に勝ち切るだけの力がなかっただけのことだ。

だからこそ、妨害行為に対して処罰は与えても、最初に決まった着順は変更しない。

「主催者は審議すれども降着させず」。

それが、長らく続くイギリス競馬の流儀であった。(※ただの個人的感想です。


(動画は2013年ファルマスS、審議の結果着順はそのまま)

しかし、先日、そんなイギリス競馬の降着理念を揺るがす事態が発生した。

世界最古のクラシックレースであるセントレジャーSで、
まさかの降着劇が繰り広げられたのだ。


セントレジャーSの降着


9月12日、イギリスにあるドンカスター競馬場は、快挙の達成を前にして大いに盛り上がっていた。
出走馬7頭中で唯一の牝馬であるシンプルヴァースが、
ボンダイビーチを叩き合いの末に競り落として1着で入線。
1992年のユーザーフレンドリー以来23年ぶりとなる、
牝馬によるセントレジャーS制覇の快挙を成し遂げたかに思われたのだ。



だが、その牝馬による快挙は、より歴史的な出来事の前に幻と化すことになった。
レース後に行われた長い審議の結果、
1着馬のシンプルヴァースが降着処分を受けてしまったのだ。

実は、最後の直線での叩き合いの際、
1着馬シンプルヴァースと2着馬ボンダイビーチは2度にわたって衝突。
その影響で、競馬場ではレース後にすぐに審議が行われていたのだ。



そして、その長い審議の末に出された結論が、
イギリス競馬で目にすることが珍しいといわれる1着馬の降着。
2着馬ボンダイビーチに対するシンプルヴァースの激突は、
着順に影響を与える程に悪質なものと判断されたのであった。

こうして、長いセントレジャーSの歴史の中で2回目で、
1789年のザンガ(Zanga)以来226年ぶりとなる1着馬降着が成立。
まさかの歴史的な出来事の発生に、
イギリス競馬界では降着基準を巡る騒動が巻き起こることになったのだ。


納得できないシンプルヴァース陣営抗議へ


セントレジャーSで発生した歴史的ともいえる1着馬の降着。
その降着に対しレース後すぐに異を唱えたのは、
シンプルヴァースの調教師であるラルフ・ベケット氏であった。

ベケット氏は、今回のセントレジャーSでの降着を受けて、
BHAの定めた降着基準には一貫性がないと主張。
9月5日にアスコット競馬場で行われたレースで1着馬が降着されなかったことを事例に挙げ、
シンプルヴァースが降着するのは不当であると発言したのだ

(事例:9月5日、アスコット競馬場のレース動画リンク

なお、ベケット氏が事例に挙げたアスコット競馬場のレースでは、
半馬身差で1着入線した加害馬が内に向かって大きく斜行。
2着で入線した被害馬を内ラチまで押し込み、
最後には前方に進路が取れなくなるまでの被害を与えていた。
くわえて、加害馬の騎手は、動作修正すべき方向とは逆の方向に行くように鞭を使用。
動作修正の意思が認められるかどうかも怪しい騎乗をしていたのである。

そして、後日、抗議する気にあふれていた調教師に馬主側が同意したことで、
シンプルヴァース陣営がBHA(英国競馬協会)に対して抗議を行うことが正式に決定
BHAがスケジュールを調整した結果、
現地時間の23日2時に抗議場所を設けられることが決定されたのであった。


意外におもしろい展開になりそうな抗議?


主催者側は審議による降着判定に自信を持っている。
その判定に抗議を行ったところで、すでに確定した結果が変わることはそうそうない。
それゆえ、シンプルヴァース陣営による抗議は、
どちらかといえば時間の無駄に終わる公算が高いであろう。

しかし、最近のイギリス競馬を取り巻くスポンサー状況を考えた場合、
今回の抗議が意外にもおもしろい展開を向かえる可能性も残されている。

従来からイギリス競馬は、ブックメーカーに馬券を販売させることで、
一定の賦課金を納めさせるといった形で運営されてきた。
しかし、ここ最近は、海外に拠点を移すなどして賦課金を逃れるブックメーカーが出現。
従来の仕組みでは、賦課金が思うように徴収できないという問題が発生してしまっているのである。

そのような中、問題に対する方針の一つとして現在検討されているのが、
賦課金逃れをしているブックメーカーをスポンサー契約から排除するという案だ。
言うならば、全てのブックメーカー企業に対して圧力をかけることで、
賦課金逃れを抑止してしまおうという方針である。

だが、いくら賦課金逃れをしているとしても、
ブックメーカーがイギリス競馬を支えている大スポンサーであることには変わりはない。
現状イギリスで開催されている51%のレースのスポンサーはブックメーカーであるからだ。
ゆえに、もしそのような大スポンサーが排除されることになってしまえば、
その分をカバーするために新たなスポンサーを引っ張ってこなければいけなくなるのだ。


そして、話をセントレジャーSの降着に戻すと、
降着処分を受けたシンプルヴァースの馬主はカタール王族の一人である。
言い換えれば、最近の競馬界で勢力を伸ばしつつある有力スポンサーが、降着馬の馬主であるのだ。

したがって、今回のセントレジャーSの降着に対する抗議は、
現状スポンサーの機嫌はあまり損ねたくないと思われる競馬場運営側に対し、
有力スポンサーのカタールが抗議してきたというおもしろい形になっているわけである。

もっとも、抗議が通らなかったからといって、
カタール王族がイギリス競馬でのスポンサー契約を撤回してまわるということは考えにくいであろう。
だがしかし、スポンサー問題を抱えるかもしれない今のイギリス競馬界でならば、
抗議の展開もおもしろいことになるかもしれないと一部では期待されているのである。


とばっちりを受けるゴールデンホーン


イギリス競馬の降着基準を巡る騒動に発展したセントレジャーSでの降着。
不幸にも、この騒動のすぐ後に審議の対象となってしまったことで、
ヒール扱いを受けるようになってしまった馬がいた。

その馬というのが、今年の英ダービー馬ゴールデンホーン
セントレジャーSと同日に行われた愛チャンピオンSで、
外から交わしにかかったフリーイーグルに側面からの激突を食らわせた馬であった。



もっとも、結果から見れば、ゴールデンホーンフリーイーグルの間についた着差は1馬身半。
激突具合はあまり良いものではなかったが、イギリス競馬の降着基準から考えれば、
セーフ判定が出ても特にはおかしくはないものであった。

そして、実際の審議で下された判決も着順変更なしというもの。
良いか悪いかは別として、いつものイギリス競馬らしい降着基準ではあったといえるであろう。

けれども、よりにもよってセントレジャーSでの降着騒動後すぐの出来事であったため、
ゴールデンホーンの妨害とその判定を批判する声が噴出。
結果的に、フリーイーグルを妨害して勝利を分捕ったゴールデンホーンという悪役イメージが、
一部で定着することになったのであった。


おまけ:アメリカとフランスならアウト


一般的に、アメリカとフランスの降着処分は、イギリスのものよりも厳しいといわれている。

審議が発生した場合、
イギリス競馬では被害馬が先着できたかどうかを基準に降着処分を下すのに対し、
アメリカやフランスの競馬では過度の妨害に対する処罰として降着処分が用いられる。

たとえば10馬身ほど離して圧勝した馬がいたとした場合、
アメリカの競馬でなら降着になりえるが、
イギリスの競馬では降着にならない公算が高いのである。


(動画:アメリカ競馬で10馬身差の勝ち馬が降着になった事例)

したがって、イギリス競馬の基準に比べれば、
アメリカ競馬とフランス競馬の基準では降着が発生しやすくなっているのだ。
言い換えれば、競馬界にはアメリカとフランスならアウトだけど、
イギリスならセーフといった走行妨害が存在しているわけである。


(動画:2014年ジャン・リュック・ラガルデール賞 1着グレンイーグルス降着
イギリス競馬ならセーフと思われるフランス競馬の降着事例)

そして、各国で降着基準の違いがあるせいか、
(主にイギリス側が)他国の審議結果に対して文句をつけることがある。



そのようなわけで、今年はアメリカで行われたビヴァリーD.Sで発生した、
イギリスからの遠征馬シークレットジェスチャーの3着降着に対して論争が発生。
同馬の調教師と馬主が、降着判定を覆すよう抗議を行っていたりする。

ちなみに、余談ではあるが、
シークレットジェスチャーの調教師はシンプルヴァースと同一である。

おまけ2: セントレジャーS、審議室での攻防


セントレジャーSでの審議室での質疑応答の動画



審議応答の原文引用元:Racing Post "Simple Verse team to appeal Leger demotion"
意訳:当ブログ

◯オドノヒュー騎手
はい、主催者=サン。

◯主催側
どのような事態が発生しましたか。

◯オドノヒュー騎手 (ボンダイビーチの騎手)
私のすぐ内側にいたアッゼーニ=サンが、強引に抜け出してきました。

◯主催側
アッゼーニ=サン、いま我々が確認した最初の妨害について言うことはありますか。

◯アッゼーニ騎手 (シンプルヴァースの騎手)
私が思うに、もし何かあるとするならば、私も彼と同程度の妨害を受けました。
見てわかるように、私はストームザスターズ(3着馬)の後ろについていってました。
そして、外にいたオドノヒュー=サンが乗っている馬が、私の牝馬に寄り始めてきたのです。

◯主催側
彼(オドノヒュー)は、あなたを妨害しましたか。

◯アッゼーニ騎手
はい、彼は妨害しました。

◯主催側
では、どこで彼に妨害されたかの説明をお願いします。

◯アッゼーニ騎手
私はパット・コスグレーヴ=サンの乗る一番人気についていってました。

◯主催側
ええ。

◯アッゼーニ騎手
この場面でも見えるように、あの馬(ボンディビーチ)が私のほうに寄り始めました。
そして、彼(前方にいる馬)の後ろの位置まで来て、私を馬の壁の後ろに閉じ込めました。
私はただ進路を外に変更しただけです。
もし外に出さなければ、私は馬の壁の後ろで終わっていたでしょう。

◯主催側
オドノヒュー=サン、最初の接触について付け加えたいことはありますか。

◯オドノヒュー騎手
ええ、主催者=サン。映像にも映っているように自体は単純です。
アッゼーニ=サンはコスグレーブ=サンの後ろに居ました。
彼(アッゼーニ)の前には抜けるスペースがありません、私はできるだけ真っ直ぐ馬を走らせようとしています、
そしてアッゼーニ=サンが外に進路を変更して、私の馬に激突。
私の馬は走行していた進路からはじかれ、バランスも崩されました。

◯主催側
アッゼーニ=サン、1回目の事象について他に付け加えることは?

◯アッゼーニ騎手
ありません。

◯主催者:
ないですか。いいでしょう。
では、今から2回目の事象に話をうつすとして、とりあえずこれ(テープ)を再び巻き戻して、
そして2回目の事象は半ハロン標識を通過したあたりで起きました。
よし、では我々はあなた方の証言をもとに1回目の事象については処理しました。
よし、今(映像上は)我々は最後の1ハロンに差しかかりました。
さて、オドノヒュー=サン、あなたは妨害を受けましたか。

◯オドノヒュー騎手
はい、主催者=サン。

◯主催側
どのようにですか。

◯オドノヒュー騎手
アッゼーニ=サンは鞭を抜き、馬に一発入れて、外に出てきて私の馬を妨害、
そして私の馬は進路を外され、2回目はかなり厳しくぶつけられました。

◯主催側
アッゼーニ=サン、半ハロン標識で起こった2回目の事象についての説明をお願いします。

◯アッゼーニ騎手
見てわかるとおりです、主催者=サン。
私が進路を外に変えようとしたとき、私は埒からまあ1フット(30cm)ほど離れた位置に居ました。

◯主催側
ですね。

◯アッゼーニ騎手
そして、私の外にいる馬は私に対してずっと寄りかかってきました。
実際、彼は軽くぶつけてきました。
見てわかるように、我々は馬3頭分ほど埒から離れていて、彼は私に寄り続けます、寄り続けます。
私の馬は大きい牝馬、でも外にいるのは大きい牡馬でしょ、
ここを見てわかるように彼は私を押し込め続けてきました。
最終的に私は埒から馬4頭分くらい離れた位置から、馬1頭分くらいの位置にまで押されました。
私の牝馬はちょっとバランスを崩しました、私は左で数発のむちを入れました。
右側にいる馬にちょっとだけ寄りかかりました。
彼女が寄りかかっていると感じた時に私は鞭を打つのをやめ、持ち替えて、右鞭を数発入れました。
そして、一番強い馬がレースに勝ったのです。
私が思うに、もし彼(ボンダイビーチ)が強ければ、
私を交わすタイミングはいくらでもあったと思うのです、主催者=サン。
私の牝馬は交わさせなかったと思います。
たとえあともう一周あったとしても、彼は私を交わせなかったと思います。
私が思うに妨害はお互い様だったと思います、主催者=サン。

◯主催側
いいでしょう。オドノヒュー=サン、2回目の事象について返答することはありますか。

◯オドノヒュー騎手
事象は発生したのか?はい。
それによって私はまっすぐ走れなくなったか?はい。
レースで2回目に受けた衝突は厳しいもので、あれで明らかに私の馬は驚き、歩調を崩し、リズムも狂いました。
そして彼は全力を尽くして、明らかに斤量差のある牝馬を抜こうとしました。
ええ、彼は妨害を受け、彼は頭差で負けたのです。

◯主催側
アッゼーニ=サン、付け加えることは?

◯アッゼーニ騎手
前にも言った通りです、主催者=サン。
彼も私と同じくらい妨害してきていると思います。
彼は私に寄りかかり続けてきています。

◯主催側
ありがとうございました。

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